共鳴音へのこだわり
ギターはボディーの共鳴箱を持っているため一番共鳴しやすい音(=共振周波数)が存在し、この音をギター用語でウルフトーンと呼んでいています。共鳴箱を持つギターであればどんな名器でも必ずウルフトーンが発生し、これをなくすことはできません。ウルフトーンの音階では減衰時間が極端に短くなりポコンという異質な音で音量が異常に大きくなります。これはギターの根本的な欠点で、名器でもウルフトーンがA(5弦=110HZ)やG(3弦=196HZ)の開放音にくると致命傷となります。ウルフトーン他方どの音階にあるかでギターの音の方向性が決まります。
ウルフトーンは木材や塗料、ボディーの形状、部品の寸法などで音階を上下させることができます。製作面では目標の音を出すためにこのウルフトーンをどの音階にセットし、いかに目立たなくするかがテーマです。私の経験では多くのギターのウルフトーンはDからBの音階の範囲のどこかにあり、高い音階のギターは高音に特徴があり、低い音階のギターは低音に特徴のあるギターが多い感じがします。無意識で製作していると材質差や製作誤差がありバラツキますので完成して結果としてウルフトーンがどこにあるか分かることになります。完成後に調整により音階を移動させることはできません。
江崎ギターはウルフトーンの音階にこだわっています。私は低音と高音のバランスからウルフトーンをG#(=103.8HZ)より少し高めが一番良いと考えています。完成後の音階を確保するためにそのギターの木工工程でどの範囲の音階になければならないかを経験で蓄積しています。簡易的ですが周波数発振器と音圧計を用いて各工程でウルフトーンを測定しながらその工程で音階を調整しています。結果論でなく江崎ギターの理想的な音階に近づくように各工程でこだわって製作を行っています。
またもう一つの共振点である表板全体の共振周波数もギターの音に大きな影響を与えます。共振点を測定すると理論は不明ですがウルフトーンの1オクターブ高いところ付近にあります。
ウルフトーンの測定
表板の材質や板厚、響棒配置を含めた剛性などで共振点は変化します。この共振点がG(=196.0HZ)の音に近づくと3弦の開放音と重なるので3弦の開放が異質な音となるため重要な位置付けでウルフトーンとの兼ね合いを見ながら木工作業でこだわって調整しています。